前説映像【前説刑事(まえせつデカ)】

これまでの公演でも、ちょこちょこ映像を使っていた前説。今回はどうしようかと思っていて。
それとは別に、いつか刑事モノをやりたいねって話をしていて。
鈴木と2人で食事をした時にそんな話題になって、「まえに武田さんが前説映像を刑事モノにしようかと思ってるって言ってましたよ」「携帯電話鳴ったせいで撃たれる、みたいなこと言ってましたけど?」と言われて、
「あっ、それいいじゃん! それで前説やろう!!」みたいなことを言ったら、
「だから武田さんがそう言ってたんですって!!」って言われて。
なので元ネタは鈴木が考えたと思ってるんですけど。違うの?

どうせやるなら今だかつて誰も観たことのないような、ストーリー仕立てのなっが~い前説にしようと、
お客さんに「まだ本編始まらないのかよ!」「長いよ!」って、心の中で突っ込んでもらおうと、
まぁそんなこんなで8月下旬あたりから絵コンテを描き始めたものの、総カット数は120以上にも及んでしまい、これは実際撮れるのだろうかという不安が…。
それなりに過酷な撮影が予想されたので、メンバーに相談したら「やろうよ!」と、無謀な返答。
面白そうなことがあれば後先考えずに乗る人達だね…と思ったりしつつ。

そのような感じで、秋から公演直前まで、稽古の合間を見て撮影撮影撮影。
ファーストカットは10月中旬、小樽の港。

気温は弱冠低かったものの、素晴らしい青空に恵まれ、何とか絵になる感じに。
代表のツテでお手伝いに来てくれた多田氏も参加し、取りあえず赤パン(武田)のシーンから。

赤パンの衣装の革ジャンと革ブーツが大変重く、身に付けているだけで体力を消耗。
現場監督でもある自分は、撮影となると絵コンテ見ながらカメラのアングルチェックして、出るとこは演技して、出ないとこは演出つけたり見本で一通りやってみたり、撮ったものをその場でカメラのモニターでチェックして…等、せかせか動かねばならぬ立場。最後までこの赤パンの衣装の重さに苦しめられることになる。

そしてCAPSULEではスタッフとして参加している下家が犯人役として出演。

外部では役者としても活動するゲヤヒロシの体当たり演技(殴られてアスファルトに転がる等)も素晴らしい。何だかもう傷だらけ。
男子がいると殺陣っぽいことができて有り難い。赤パンと犯人のシーンでは弱冠そういう演出も。

私の繰出すパンチを見たお手伝いの多田氏が思わず「早っ!」と口走る。リアル男子にパンチの早さを褒められる女子。
初対面の多田氏はとても和やかかつサクサクと動いてくれて、撮影も非常にスムーズに進行。大変有り難い助っ人。


そしてルーキー(鈴木)の撮影も初日がメイン。

ひとりで歩くカットでは、皆があのドラマのテーマソングを心の中で口ずさむ。映像にはほとんど写ってないが、煙草も彼と同じものを揃えたり、万全の体制。
新人刑事らしいドジっぷりを発揮するキャラは大変愛おしく、鈴木自身の小さい身体と相まって、以後もメンバーに愛される存在になったルーキー刑事。
殉職したマイコン(寺元)を見て号泣するシーンでは、様々な泣きパターンを演じる鈴木。表情の作り度合いも自由自在。素晴らしい…。
が、ルーキーの撮影シーンでは皆笑いを堪えるのが大変。

そして男前キャラを配するCAPSULEの中で、いつなんどきでも娘役に徹する役者・松本に、ベテラン刑事の松さんを演じてもらうことにする。

キャラを作り衣装を選ぶ際、「いかにも刑事らしい刑事で」と、映画やドラマを例に出して説明をしたのだが、刑事ドラマなど見たこともない松本、「わかんない!」を連発。
結局ご両親にも相談したようで、“刑事らしい服装”がほぼ松本家の手持ち服で揃った様子。そして用意した帽子を被ってもらうと、意外と刑事っぽく見えてくるから不思議…。
撮影当初はキャラが掴めなかった様子だった松本だが、撮影を何度か繰り返すうちベテラン刑事らしい風格も出てきて、松さんラストカットの「犯人にカツ丼を差し出す」というくだりでは、長年一緒にやっている私も見たことがない“いい顔”を作って下さった…。まだまだ引き出しを増やす役者、松本奈緒子恐るべし。

そして10月下旬、冷たい強風吹きすさぶ中、オープニングの全員並んで歩くシーンを石狩湾新港で撮影。
この日を逃すと日中に役者全員が一度に集れる目処が立たず、何がどうあっても今日撮らねばならぬカット。
なのに撮影当日の朝、集合場所へと向かう途中に立ち寄ったガソリンスタンドで武田の車が突然動かなくなるハプニングが発生…。

当日のロケには役者全員+スタッフ2人(下家・佐藤さなえ)の計7人が参加。急遽レンタカーを手配したものの、なんだかんだで結局3時間のロス。撮影現場に着いた時点でもうぐったり。
そして現場。普通の路上で撮っているので、車が通るたび撮影は中断。

通りすがりのドライバーに好奇の目を向けられる。仕方ないけど、悲しいことこの上ない…。
この日がマイコン(寺元)とボス(川原)の撮影初日。衣装はこっちで指定したものの、インテリ風ながら何だか気持ち悪い寺元と、予想通りありえない川原の扮装に一同撃沈。
この2人は室内での撮影が多いのでそれは後日にまわし、取りあえず雪が降る前に屋外カットを撮り終えることにする。
海沿いなせいもあるのか、大変寒い。震えながらも日没までに何とか撮り終える。

後日。演出補の自宅マンションにて、ボス(川原)の自宅カットの撮影。

その頃には舞台稽古の回数も増えて疲労が蓄積してきていた我々。暖かい室内で撮影できるというのは体力的にも大変有り難い。
ボスの自宅という設定なので使われる小道具も多く、揃えるのに結構な苦労。家主である演出補の了解も得、その辺にあるものもガンガン使って撮影が進む。
特に仕事らしい仕事をしない設定のボスを、頼んでもいないのに必要以上に挙動不審に演じてくれる川原。

富士額にオールバックが良く似合う。色白モチ肌のボス。
本当は白いスーツに白のエナメルの靴を履かせてやりたかった。ヘリからライフルで狙撃して欲しかった。
予算等の都合上、無理。
当たり前だが、悔やまれる。

また別の日。今度はマイコン(寺元)カットの撮影。
個々のカットを撮る場合、撮影のない役者は休みだったりするのだが、撮影及び編集担当でもある寺元はほぼ毎回撮影に参加している。撮影及び音声編集を担当している代表も然り。もしくはどちらかがカメラ担当として参加。ちなみに私は撮影の現場監督をせねばならぬので、何があっても毎回強制参加。
寺元撮影の良いところは繋がりを意識したクレバーさで、代表撮影の良いところは枠にとらわれないアバンギャルドさ。
寺元は写り込み等も配慮しながら計画的に撮影する反面、代表はその場の役者の動きに合わせて手持ちカメラで撮影することが多い。
代表のカットはダイナミックながら使えないことも多々あるので、そんな時は寺元がきっちり押さえたカットがあるから安心。そんな関係も今回公演の撮影で見えてきた気がする。
本日の寺元は主に出演者として参加。

「FBI出身のインテリでアメリカかぶれ」という裏設定のあるマイコン刑事を、さらりとソツなく・程よく気持ち悪く演じてくださる。

ちなみに裏設定として、
●赤パンは、パソコンなどの機械類やデータ分析などの室内作業が苦手。知能派のマイコンに対して「なんか気に入らねぇヤツ」という感情を抱いている。しかしマイコンはそれに無関心である。
●松さんは足を使う捜査を信条としている。普段は温厚な性格だが、取調室では態度が豹変。「落としの松さん」と呼ばれている。
●赤パンは口に出さないものの、そんな松さんを密かにリスペクトしている。
●松さんは時より暴走する赤パンをなだめる役回りでもあり、2人は長年コンビを組んでいた相棒でもある。
●ルーキーはよく失敗をやらかす。憧れだけで刑事になってしまったからだ。しかし、他の刑事達はそれを温かい目で見守っているのだが、マイコンだけは無関心である。
●ボスは基本的にあまり仕事をしないが、刑事達はそのことを別段なんとも思っていない。各々自分の仕事が好きなので、仕事さえ与えてもらえればいいと思っている。
等々が。まぁメンバーにすら話してないのもありますが。

そしてギャング一味として、スタッフの下家(今回の助演男優賞)と、演出補の小川、制作の佐藤さなえも出演。

単に人数が足りないだけなのだが、外部団体では役者として出演している下家・佐藤が居ることで、かなり有り難い感じに。そういえば小川も高校時代は演劇部の役者だったらしい。
ギャングのアジトとして撮影が行われたのは、これまた代表のツテでお借りした某劇場の地下倉庫。

実際はあまり広くはないスペースなのだが、アングルに工夫しつつなんとか撮影。
このアジトでのシーンでは音声も同時に録音しているので、余計な物音(含む、笑い声)厳禁。撮影中は脇で待機しているメンバーが皆、肩を震わせつつ顔を背けるという非常事態に。
刑事達が次々と撃たれては殉職してゆく。皆バカなので自業自得なのだが、すっかり刑事達に愛着の湧いてしまった作者としては何だか悲しい気持ちに。
なのでラストにもうひとカット、入れようかどうか迷っていたシーンを最後に付け足すことにする。

間に舞台の稽古やら、室内カットの残り撮影やら、その他いろいろを挟み、公演本番5日前。
その追加の10秒足らずのワンカットを撮る為だけに、真冬の屋外撮影へ。

物凄く気温が低い一日。風も強く、郊外へ向かう程に段々吹雪いてくる。
そんな中、レインボーブリッジに見立てる為の橋を探して右往左往する、バカな大人達である我等。
晴れている方面に車を走らせると、偶然にもほんとうに小さい、小さすぎて寧ろ面白いぐらいの橋を発見し、民家の脇ですぐさまセッティングして撮影。

4テイクぐらい撮ると、あっという間に吹雪いてきて強制終了。
これにて前説映像の撮影も全て終了となり、仕上げは映像編集の寺元、音声及び楽曲編集の代表、選曲担当の岩渕の手に委ねられることに。
映像編集担当・寺元の技術は公演を重ねるごとにレベルアップ、音響の岩渕嬢はあえてベタベタな楽曲をチョイスして馬鹿馬鹿しい映像さらに盛り上げ、プロの音響でもある代表はオープニングテーマ曲を映像の長さに合わせてピタリと編集。「凄いわ~。どこで繋がってるのかわかんないっすね。」って言ったら「まぁ、それでメシ食ってますんで。」と仰っていた。効果音もビチっと合ってるし…。流石。

撮影当初はいつ撮り終るのかと先が見えなかった前説映像も、このようにして取りあえず無事完成。
撮影日数は実質2週間弱なのに、やたらと時間と手間がかかった気がする…と思っていたら、撮影の他に個人的に小樽やら石狩まで何度も写真撮影やらロケハンやらに行ってるんだった。
休日なのに「別にいいよぉう」と、何度もロケハンに付き合ってくれた我が妹にも感謝。
小道具やら衣装やら色々なものを貸してくださったメンバーの周りの人達にも感謝。
様々な方々の協力を得て、我々素人集団CAPSULEの壮大な映像プロジェクトは遂行されました。
一個人のくだらない発想が映像としてちゃんと記録に残せるのも、メンバー及び関係者の方々の協力あってのこと。演じてる本人達(出演者)は観ることのできない、生の舞台とはまた違った楽しさがございました。

 

CAST     STAFF  
赤パン 武田美穂   企画・構成 武田美穂
松さん 松本奈緒子   撮影 寺元彩乃
マイコン 寺元彩乃     大江芳樹
ルーキー 鈴木祥子   映像編集 寺元彩乃
ボス 川原南風   音声編集 大江芳樹
  音楽 岩渕民里子
犯人 下家弘      
ギャング 下家弘      
小川尚子      
佐藤さなえ      


SPECIAL THANKS
多田浩二
ターミナルプラザことにPATOS
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