【作品解説】

□ title  1. 新・日本の常識  2. 押してください  3. なんでかわかる?
       4. 押さないでください5. 時速にして20km以下  6. 紙に包んで捨てましょう
       7. 押す人を探してください   8. さよならメガネ軍隊  9. そんな日曜日

 

■新・日本の常識
今週も始まりました「新・日本の常識」
当番組は今まで常識だと思われていた“ものの名前”を今一度見直し、新たな呼び名を誕生させるという画期的なプログラムです。
本日のゲストの4名と、会場にお越し戴いた皆さんの手によって、今回も新しい日本の常識が生まれる事となります。
今週は新婚家庭によくあるシチュエーションがテーマです。さぁ、どうぞご覧下さい。

世の中のものには色々な名前がつけられている。それは何故なのだろうと思ったのです。
共通の呼び名があった方が都合が良かったからに違いないと思いました。しかしそれは誰かが作り出した概念なのではないのかと。目に見えないものにまで名前や単位を付けて、それをあたかも目に見えるもののように表してしまうこの概念というやつ。
凄いものですが、あえてこれに反抗してみようと思ったのです。そんな考えから生まれた演目です。
今回の公演では日常的なものが多かったので「変なコントをやりたい」と思って演目に加えました。
本公演では“ぬるい始まり”を常としていたCAPSULE。1本目から投げっぱなしてみました。

   
■押してください
友人が持ち込んだ1つのボタン。家を出ようとすると玄関の前に置いてあったという。
一体何のボタンなのか。押すと何が起こるのか。
そのボタンをめぐる2人の会話が展開する。

ある日、テレビを見ていたらインタラクティブ・アートというやつをやっていまして。
その作品にボタンを押すだけというものがあったんです。「ボタンを見ると押したくなるという人間の心理を利用したもの」という作者のコメント。うんうん。確かにそうですな。
じゃあボタンを「押してくれ」と言われたら? 「押さないでくれ」と言われたら?
そんな発想からできた今回のスイッチ3部作。3本合わせると計40分。今回公演の核になった演目です。
この「押してください」では鈴木と南風の小競り合いがかわいらしい作品になったのではないかと思います。

   
■なんでかわかる?
生前の行いに対して裁きを受ける場所。そこへある1人の男がやってきた。
自分の悪い行いを反省して悔いを改めると、新しい生命として生まれ変わる事ができるという。
彼は様々な過去の記憶を反芻してみるのだったが・・・。

出オチです。角つけて金棒持ってたら面白いかと・・・。
意外にも、怒りキャラがぴったりだったのは南風さんでした。更に出オチになったかと・・・。
作品のモチーフは「鬼」と、映画「メメント(!)」記憶の反芻です。
回想シーンに出てくる寺元・鈴木・松本のキャラも濃く、5人の役割がきっちり果たされた演目だったのではないかと思います。
寺元さんの演じた経理部の村上さんが大変気持ち悪く(褒め言葉です)共演者が慣れるのに時間がかかりました。
鈴木さんのギャル男キャラは完璧な仕上がり。リアリティです。
松本さんがうなじからかもし出すエロチシズムにはCAPSULE娘役トップの貫禄が。
トータル的に、男を演じた武田が一番普通の人ではなかったのかと・・・。

   
■押さないでください
あんなに大騒ぎした挙げ句、結局は友人が忘れていった1つのボタン。
そこへ別の友人がやって来て、そのボタンに興味を持つ。
些細な用事で部屋を空けることになり、ひとり部屋で待たされたその友人はとうとうボタンを押してしまうのだったが・・・。

スイッチ3部作の2本目。今度は「押してはいけません」と言われた人の心理です。
やってはいけないと言われる事ほど、ついついしたくなってしまうもの。そんなジレンマを描いてみました。
自由奔放な松本さんのキャラに、南風さんのキャラはまた怒りっぱなしでした。今回公演の南風さんは怒りキャラが多かったですね。新境地ですな。
この「押さないでください」は大騒ぎした1本目よりはちょっと大人っぽい感じで。
まぁ騒いでいることに変わりなはいんですが・・・。
しかし、幕から半分だけ顔が出てるって何で面白いんでしょうね? 謎です。

   
■時速にして20km以下
連休の渋滞に巻き込まれた車の中での出来事。
自由奔放な先輩、それをなだめつつも渋々目的地へと車を走らせる後輩。
ただそれだけのおはなし。

演目内のひとつの会話のブロックが先に頭に浮かびまして。それにぴったり当てはまるシチュエーションが「渋滞中の車の中」だったんです。それに前後を肉付けしていって、完成したコントです。
一見派手なように見えますが、実はほどんど座りっぱなしの会話劇。車の中という限られた空間での出来事を、小さく見えないように作ったつもりです。
奔放な先輩キャラの鈴木と、常識的な優等生キャラの寺元が対比をなす一作。
役を作る段階で、2人はそのキャラで日常会話を交していたら何となく人物像が見えてきたと言っていました。
なるほど。そういうキャラ作りの方法もあったのだね。

   
■紙に包んで捨てましょう
とある待ち合わせスポット。そこに吐き捨てられたガムに靴がくっついて取れなくなってしまった人間がひとり。色々と試行錯誤するものの、一向に取れる気配すらないそのガム。
そこへ待ち合わせをしていた友人がやって来て言った一言。「・・・踊るか?」
困惑する中、どこからともなくやってきたダンサー達が現れ、激しいダンスが展開される。

ガムを踏んでね、靴が取れなくなったら面白いと思ったんです。
さて、どうやってそのガムを取ったらいいものか。
そして思い出したのがマイケル・ジャクソンの「スリラー」で膝に手を当てて半回転するシーン。これで取れたら最大限に馬鹿馬鹿しいかと。そんな単純な発想です。バカです。
しかし稽古は困難を極めました。まず足が動かないように見えるマイムが大変。これは寺元さんが足の筋肉を痛めつつ、頑張ってくれました。
そして踊れないCAPSULEがまたもや踊る事に・・・。今度ばかりは誤魔化しのきかない振りの揃ったダンス。頑張りました。またもや汗だくです。
稽古場は一時ダンススタジオと化しました。「ダンススタジオ・マイケル」スリラーしか練習しませんけども。

   
■押す人を探してください
ボタンを押すとひとりの人間がやって来た。どうやらそのボタンはその人を呼び出す為のボタンだったらしい。
彼は一体誰なのか。どんな目的でやって来たのか。そのボタンを押してしまった人間はどうなるのか。
そのボタンの謎が彼の口から語られる。

スイッチ3部作のラストの演目は、今までのCAPSULEにはないちょっとシリアスな展開の1本。
個人的にはこういう緊張感のあるものが好きなんです。今回の公演のアクセントになったのではないかと。
しかし演じ手としては大変でした。一瞬たりとも気が抜けない。そしてセリフの量が膨大。武田と松本が役者魂で頑張りました。
自由奔放な友達と、変な兄を持つ南風さんの演じるキャラ。何だかかわいそうな気すらしてきます。
稽古では「お前らみんな帰れ!」とお怒りのご様子でした。ごもっともです。

   
■さよならメガネ軍隊
いつもと何ら変わらないメガネ軍隊の朝。起床ラッパが鳴り響く。
整列した隊員達は上官の指揮の元、早速厳しい訓練を始める。
しかし何故かメガネに違和感を感じて・・・。

メガネ軍隊シリーズももう4作目。これは前回公演の前段階でほとんどプランは出来ていました。
今回はやはり演目中に映像を使ったのがポイントではなかったのかと。ロケはあらゆる場所で行われました。市内某所の公園でのロケでは、葉巻きを吸う上官の姿を子供達が遠巻きに見つめておりました。
そしてダニエルとミヤギが浜辺で戯れるシーンの撮影は4月中旬の海で行われました。
流石に水が冷たい・・・。そんな中、水をかけあった南風と鈴木、そして膝まで水に浸かって撮影した代表、お疲れ様でした。
卒業したようでしなかったメガネ軍隊の隊員達。続編はあるのでしょうか? まだ私にも解りません。

   
■そんな日曜日
街を見下ろす小高い丘の上。久し振りに昔の仲間が集合する事になった。
子供の頃よく遊んだその場所には、彼等の思い出のタイムカプセルが埋められている。
大人になってすっかり変わってしまった自分を取り巻く状況、変わってしまった町並み。しかし変わらない場所があって、変わらない仲間がいる。
そんなある日曜日のおはなし。

CAPSULEがCAPSULEになる前の劇団だった頃、“脚本を書いて演出をしてみよう”という稽古が行われた事がありまして。これはその時に書いた演目をアレンジしました。
基本的にはもう2年半ぐらい前に書いたものです。
札幌で生まれ育った私には、故郷の思い出というやつがないのだと思っていたのです。
子供の頃暮していた所までバスで約20分。そこへ久し振りに行ってみると、マンションが増えていたり、当時の友達の家がなくなっていたり。でも学校の近くの駄菓子屋は相変わらずあって、小学生の頃みんなで登った木もあって。
そんな場所に懐かしさと、ちょっとした切なさを覚えました。私にもあったのですね、望郷の念というやつが。
そして実際の今の仕事がなかなか自分の思い通りにいかないという現状と、舞台という自分のやりたいようにやれる好きな事を持っているという2つの感情を、それぞれ置き換えてみました。今回の演目の中で最も感情移入して書いた作品です。だから泣きながら書きました。・・・嘘です。
しかし小道具に使ったうまい棒を食べたんですが、久し振りに食べてみたらうまい棒はうまかったねぇ〜。
でも先日、小学校の近くを通るとその駄菓子屋は閉店していました・・・。切ないものですな・・・。

   
□ 第3回公演を終えて
今回は随所に映像を使用した為に、絵コンテを大量に描きました。
前説の映像にも凝ってみました。客室乗務員風の美しい大村さんと、モテない度100%な手話通訳者の武田のコントラストが素晴らしかったのではないかと自負しております。
個人的には「新・日本の常識」の中の夫と妻の会話の映像も好きです。いろんな意味でいやらしい夫婦だ・・・。
 郊外までロケに連れ出された役者、撮影に加わったスタッフ、編集作業をほぼ一人でこなした寺元さん、お疲れ様でした。

内容としては前回公演よりも会話劇が多く、ともすれば地味な印象だったかもしれません。
しかし今回はCAPSULE初めての春の公演という事で、タイトルの【HOLIDAY】に沿った「休日」をテーマにしたものを中心に、まったりとした感じで観て戴ける演目を多くしました。その辺が逆にちょっと不安ではあったのですが・・・。
個人的には今回の公演で色々と反省する点が多かったです。まだまだですな・・・。
コント職人への道は厳しい・・・。
反省は明日への糧。初心に戻って、次回公演は更に精進させて戴く所存です。

さて、CAPSULEの3回目の公演。無事「3度目の正直」となる事ができたのかどうか・・・。
本番前、舞台の袖で他の役者達と一緒に出番待ちをしていて、この人達と一緒に舞台に立てて本当に良かったと思いました。
スタッフは、拙い演出の指示を的確にこなし、公演を支えてくれました。
制作には新しいメンバーも加わり、慣れない作業もきちんとこなしてくれました。
そしてお手伝いの方々に支えられ、無事公演を行う事ができました。この場を借りて感謝します。ありがとうございました。

そして何より、2時間という長い公演を見守って下さったお客様、本当にどうもありがとうございました。
調子に乗って脚本書き過ぎました・・・。反省しています。コントで2時間・・・。
有り得ないっすよね・・・。
次回は時間的にも、内容的にも、もっと贅肉を削ぎ落とした公演にしたいと思っております。無駄のない、シャープな公演にしたいものです。まさにCAPSULEの名前の由来のような。

次回公演は11月。
BLOCHで皆様とお会いできる事を楽しみにしております。

[作・演出 武田美穂]
 

 

actor

武田美穂  松本奈緒子  寺元彩乃

川原南風  鈴木祥子


staff

舞台監督/照明 大江芳樹
演出補佐 小川尚子
音響 岩渕民里子
制作 河田春菜
田中麻衣子
長澤真理絵